校長ブログ
大学進学率上昇
2024.10.30
大学進学研究
10月30日
日本の大学進学率は1990年以降伸び続け、2023年には57.7%になりました。大学進学率の上昇について、山本啓一氏(北陸大教授)は、高学歴化が地方の企業や組織を変え、新たな付加価値を生んだと指摘されています。
大学進学率が上昇したのは、グローバル化によって企業が拠点を海外に移したため、高卒に対する求人が減ったことにあります。高卒求人数が大卒求人数を下回ったのは1997年。当時は就職氷河期で大卒者の就職率も低下していましたが、高卒で就職の道を閉ざされた層が大学進学を選択したのです。結果、大学の新設や短大の4年制大学への転換も進み、定員割れ大学が増えました。
少子化に伴い、18歳人口は急減し、定員割れの私立大学の割合は今や53.3%(日本私立学校振興・共済事業団、2023)になっています。顕著なのは地方の中小私大。文科省によれば、その約4割は収支が赤字だそうです。しかし、中小私大はカリキュラムや授業を工夫し、地方の経済を支える人材を輩出してきました。しかし、ミスマッチで中退した学生も多かったのは紛れもない事実。就職氷河期も深刻化し、就職先が内定しない学生もいました。
米国の社会学者マーチン・トロウは、『高学歴社会の大学』の中で、高学歴者の進出によって職業の質的な変化が起きると述べています。そして、大卒が増加し、高卒が多かった仕事に就き始めると、指導性や権限、技術や想像力を発揮して、職業の性格を変えてしまうと言及しています。日本でも地方中小私大の卒業生が大学時代に身につけた課題解決力などで中小企業を変革し、新たな付加価値を生み出しています。
大学教育に対するニーズも変容し、専門知識偏重から背景知識と論理的思考力に基づく課題発見・解決能力が求められていきます。その中で、地方の中小私大は地元の生徒を積極的に受け入れ、実力を磨き、地元の経済や社会を担う人材を輩出してきたのです。
近年、公立化を目指す私大も増えています。学生募集は改善するものの、入学者の県内出身者率や県内就職率は低下しているそうです。現在、若年労働力人口が減少し、就職活動の売り手市場化も加速しています。大学3年の時点で、インターンシップで春休み中に複数の内定をもらう例も珍しいことではなくなりました。
大学だけでなく、会社も「全入」時代を迎えたと言えるのです。地方の中小私大は、4年間の学生生活を通じて地域に付加価値をもたらす人材育成の仕組みづくりが求められます。その成否が命運を分けるポイントと言えるのです。