校長ブログ

漫画のAI翻訳と世界同時配信

2024.08.16 トレンド情報
8月16

 生成AIが漫画を翻訳し、世界に同時配信する時代です。集英社、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックス・ホールディングスなどといった有名出版社が出資する漫画をAI翻訳するマントラは、翻訳時間を半分以下に短縮することができる技術をもっているそうです。

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 マントラは東大発スタートアップ企業であり、機械翻訳や画像認識の研究者が4年前に設立。電子コミック向けに漫画に特化した翻訳AIをクラウドで提供しています。方法は画像認識で吹き出しの中のセリフを解析し、AI翻訳した後、翻訳家が表現を修正するというもの。独特の言い回しが多く、翻訳が難しい漫画ですが、マントラは画像認識技術と大規模言語モデルを組み合わせ、どのキャラクターが話したセリフか推定し、その情報を基に翻訳するそうです。英語の場合、誤訳は1.6%というから精度はかなり高いものです。今後、小説やゲーム、動画などにも翻訳を拡大していくとのこと。

 マントラは実用化で先行しており、英語、中国語、ポルトガル語など18言語に対応しており、単行本で言えば約500冊にあたる月間約10万ページの翻訳に活用されています。集英社は『ONE PIECE(ワンピース)』『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』のベトナム語訳などに使い、小学館は自社の作品に使いやすいようにカスタマイズし、同社のコンテンツを配信するプラットフォームを構築するとか。

 サイバーエージェントは、今年度中に独自の翻訳AIを開発し、海外で人気の高い日本の漫画の世界同時配信を増やす計画をお持ちです。併せて、光学文字認識技術や日本語LLMを生かし、英語、スペイン語、フランス語などを検討中されています。オレンジ(東京)は米国で今年から翻訳作品の配信を始める予定であり、小学館など10社から資金を調達し、翻訳家を支援、年内に月500点を翻訳できる体制を構築した上で、5年間で5万点の翻訳を目指す計画です。

 日本の漫画は海外でも人気が高いものの、英訳された作品は14000点程度と全体の2%に満たないのが現状であり、これからの成長分野とも言えます。政府はコンテンツ産業の輸出額を2033年にも10年前の4倍に増やす目標を掲げています。しかし、一方で、AI翻訳への懸念の声もあるのは事実。日本翻訳者協会は、AIによる翻訳作品のニュアンスや文化的背景、登場人物の特徴を十分に反映できる品質に達していないと指摘しています。生成AIはあくまでツール、そのツールを使いこなしていく過程でどのように翻訳者の理解を得るかが大きなポイントになっていることは自明のことです。