校長ブログ

AI理解

2024.08.07 EdTech教育
8月7日

 ハーバード大学教授で科学教育を統括するクリストファー・スタッブス氏は、人間がすることの大部分にAIが入り込んでくる状況を鑑み、当初は生成AIの使用を禁じようとしていたものの、現実的でないと述べられています。そして、これからの大学の責務として、教員が生成AIへの理解を深めることを原則とした上で、 適切な使い方の指導と併せて、より速く、よく学べることをファシリテートする必要性を挙げておられます。

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 ハーバード大学では、AIを使う教員が増えており、AIを使って論文を書かせる授業をスタート。根底には、AIは書く内容を整理するものに過ぎず、論文を書かせる機能は持ち合わせてはいないという前提があります。コンピューターサイエンスの授業でもAIを講師役に使うものの、一部の機能しか使えません。

 学習効果については、まだまだ本格的な検証を始める段階にあるとはいうものの、クリストファー・スタッブス氏の同僚が生成AIを使うグループと使わないグループに分けて授業をしたところ、使った学生の教材への取り組み方が前向きになる傾向が見られたそうです。

 確かに、生成AIの力を借りれば、苦労して問題を解くことはなくなります。しかし、物事を深く理解できるようになるかどうかはわからないという点が指摘されているのもまた事実。その意味で、教える側は生徒の理解を深める責任があるだけでなく、適切に使う経験を有する必要があるわけです。サンディエゴにある公立校ハイ・テック・ハイ(HTH)のように、木工を通じて物理の法則を学ぶ授業を行うなど、最近では、教科書もテストもない学校が出てきました。

 生成AIが世界で3億人分の雇用を自動化するとの予測が出ています。6千人以上が通うHTHでは、人を財産とみなす「人的資本経営」を中核に据え、社員教育やリスキリング(学び直し)に加え、思考力や判断力を鍛えるプログラムが工夫されています。公正(Equity)が重視され、学費は無料、入学者は抽選でも学力テストの成績は州平均を上回り、大学進学率は9割に上るそうです。

 藤井輝夫氏(東京大学学長)とジョセフ・アウン氏(ノースイースタン大)は、技術が進んだ世界で価値を増すのが人間中心のスキルであり、そのためには大学が創造性と批判的思考を育まねばならないと述べられています。東京大は2027年、「カレッジ・オブ・デザイン」を設け、修士を含む5年一貫で文理の枠を超えて学び、脱炭素や医療といった複雑で高度な課題の解決策を描く人材を育てることを発表しています。ノースイースタン大は、「コーオプ教育」と呼ばれる長期インターンシップで知識を実践に生かす力を鍛える取り組みを行います。さらに、これまでは149カ国の3000社と組み、6カ月以上の長期インターンシップに学生を送り出してきましたが、今後、社会人向け学習コースも増やしていくとのこと。もうすぐ、AIが人間の知性を超えるシンギュラリティーを迎えるとも言われていますが、いつの時代も技術が革新されるたびに問われできたのが教育の質であり、それに伴い文明を発展させてきたのです。