校長ブログ
日本の研究力
2024.07.17
トレンド情報
7月17日
日本の研究力低下が指摘されて久しいものがありますが、近年の論文は引用されていないものが約半分を占めているそうです。論文は引用数が多いと質が高いと言われます。科学技術・学術政策研究所(文科省)の『科学研究のベンチマーキング』(2023)によれば、2020年の日本の論文のうち、被引用数が0〜3回のものは48.7%あり、約38%の米国や中国、34〜39%の英仏独、世界の平均である43.6%より低くなっています。
論文を執筆する際、研究テーマが近いものから引用するのがふつうです。日本は国際共同研究を増やそうとしていますが、つながりが薄くなったと言われています。現実的には、日本の研究者がタイトスケジュールであり、2018年度の調査では、大学教員は職務時間の33%しか研究にあてられず、16年前から14ポイント落ちていることが明らかになっています。
例えば、医学系の場合、診療もあり、論文執筆はかなりの負担。全国医学部長病院長会議の調査(2022)では、大学助教の研究時間ゼロが約15%、週1〜5時間が約半数を占めているとのこと。4月から医師の残業時間が制限されたため、さらに減ると予想されています。
このような環境に加え、論文数や被引用数をもとにした数値指標を使った研究者の評価の浸透が悪影響を及ぼしているとも言われています。研究者を評価する場合、その分野の専門家が担うのが一般的です。しかし、近年、高度に専門化され、一人の研究者が評価できる範囲は限られてきています。その隙間を埋めるのが論文評価の数値指標。数字で表すと、客観的に評価したかのようにみせることができるからです。
欧米ではこうした数値指標を使わず、専門家が業績の内容で評価する動きがあります。それに対し、日本ではそうした評価がすぐに広がると考える人は少なく、研究費の配分などでは数値指標を重視する現状が変わることは考えにくいことです。引用されない論文の増加は世界的な傾向にあり、掲載料目当ての学術の影響も大きいという声もあります。
2001年にノーベル化学賞を受賞され、科学技術振興機構研究開発戦略センターの名誉センター長である野依良治氏は、こうした論文の増加について「研究廃棄物」になってはいないかと危惧されています。そして、客観的数値を使うのはよいが、評価は価値観を伴う主観であり、画一的な数値評価は不十分というより学術の発展には有害と述べられ、評価の趣旨や目的を明確にし、情報を十分に集めた上で、専門的な評価がなされるべきだと言及されています。今、求められるのは研究の質。質を高める方策を研究者の評価から考え直す議論が不可欠となっているのです。