校長ブログ
校長室の書棚から-『学力と幸福の経済学』
2024.06.19
カリキュラム・マネジメント
6月19日
『学力と幸福の経済学』(西村和雄・八木匡編著、日本経済新聞出版)という本が今年4月に出版されました。
序章は「少数科目入試の罪と罰」と題され、偏差値への信仰、独創性を育てる教育、公立学校の衰退、所得格差の問題、数学は必要ないのか、21世紀の日本の教育について興味深い言説が繰り広げられます。
第Ⅰ部「学力低下の実態」では、劣化する日本の大学生の数学力、より深刻な理系の学力低下、「ゆとり教育」が弱体化させた研究開発力が言及されます。第Ⅱ部「学校教育は予想以上に人生を左右する」では、数学ができる人の所得は高い-得意科目と年収比較、格差を拡大させた教育政策、理系は文系より高給とり、物理好きは仕事ができる?、入試制度の多様化は優秀な労働者を生み出さなかったなどが考究されています。
第Ⅲ部「幸福度を高める家庭教育とは」では、社会的成功をもたらす4つの躾、子育てのスタイルは所得形成、幸福感、学歴にここまで影響する、子供を伸ばす褒め方、叱り方、(校長ブログ2023.2.1)自己決定する人は幸福度が高い、第Ⅳ部「思考と行動のメカニズムを解明する」では、何が人を動かすのか-行動変容と向社会的意志決定、思考タイプの違いは仕事・学習の能力形成に影響するなどが論及されます。そして、終章では、教育での実践例として、大阪市における規範意識の醸成、学力向上事業、理科の学力向上について例示。時代が求める教育のエッセンスが満載されているだけでなく、鋭い視点でのアプローチに読者は引き込まれます。好個の文献です。一読をお勧めします。
編著者の一人である西村和雄先生は、現在、私が理事を務めさせていただいている国際教育学会の会長であり、神戸大学計算社会科学研究センター特命教授、大阪市教育委員会顧問です。かつて、日本、カナダ、アメリカの大学で教鞭を取られ、京都大学名誉教授、複雑系経済学の世界的権威であり、瑞宝重光賞受賞、日本学士院会員です。教育分野では、ゆとり教育の問題点を指摘し、学校教育・家庭教育に関する調査研究をされています。日本数学学会出版賞の『分数ができない大学生』(共著)を知る方も多いはずです。