校長ブログ
月面経済圏
2024.06.10
トレンド情報
6月10日
日本人の宇宙飛行士が月面に降り立つ時代がやってきました。アポロ計画の時代とは違い、今時の月探査は月に行くことが目的ではなく、宇宙産業育や経済活性化につなげることをねらいとしています。そこで克服すべき課題として、水探し、インフラ整備、飛行士育成という3つの課題が浮上しています。
月探査アルテミス計画の一環として、日本人宇宙飛行士が2028年以降、月に2回着陸することが決まり、2031年には日本が開発した探査車を月に送ることになっています。日米の宇宙飛行士が共に月面に降り立つという共通目標に向けて取り組みがスタートしたわけです。
アルテミス計画では、2026年に男女2人の米国人宇宙飛行士が月に着陸、2028年からは年1回のペースで月に宇宙飛行士を送り、2030年代には基地を設けて継続的に活動する計画。その目的は、月の南極などに存在していると考えられている水を発見して宇宙開発に役立てることにあります。もちろん、水からはロケット燃料を作ることができ、火星などより遠い天体へ向かう補給基地として活用することが可能になります。
そのためには、水資源を探し出せるかがポイント。月面開発ではアルテミス計画に加え、中国を中心にした国際月研究基地(ILRS)計画も進み、多くの国が水資源獲得に向けて奔走しています。無人探査機や月上空からの観測に加え、宇宙飛行士が月面を実際に調べる意義は大きいものです。
その一助となるのが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がトヨタ自動車や三菱重工業などと開発を進めている有人月面探査車ルナ・クルーザー。車内に空気を満たして宇宙服を着ずに乗り込めます。宇宙飛行士を乗せて、一日20キロ走り、南極の複数の場所で土壌や資源を探査できるとのこと。宇宙服を着たまま搭乗する米国の探査車以上に広範囲の探査ができるそうです。運用期間は10年間、総走行距離は1万キロメートルが見込まれています。課題は開発にかかる数千億円とも言われている費用です。
二つ目の課題がインフラ整備。NASAやJAXAのような国家機関だけでなく、民間企業も加わった活動が活発な「月面経済圏」が形成されると期待されています。水資源の開発について、JAXAは国内プラントメーカーと協力して、水からロケット燃料を作るプラントの検討を進めています。1%の水を含む月の砂を半径約300メートルの範囲で深さ0.5~1メートル採掘して水を抽出すれば、年間50~60トンのロケット燃料を10年分製造できると試算。高砂熱学工業は水からロケット燃料になる酸素と水素を作る装置を開発、宇宙スタートアップのispaceが今冬打ち上げる月着陸機に搭載して月面で試験する予定だとか。
水資源だけでなく、省エネなど、エネルギー関連や生命維持関連の装置、建設なども期待されています。日本は世界に先駆けて産学協同で「月面産業ビジョン協議会」を立ち上げました。若田光一氏は、日本人の宇宙飛行士の月着陸が近づいていることを踏まえ、企業などと連携して役割分担していく体制作りを強調されています。いずれにせよ、民間の力を借りて、月面での経済活動に参入しやすくなる仕組みづくりが急務。克服すべき点はたくさんありますが、ビジョンをもち、取り組んでいく姿勢はあらゆる物事にあてはまることなのです。