校長ブログ
大学入試問題について-英語
2024.04.27
教科研究
4月27日
今回はかつて英語教育の現場にいたという保護者との対話からです。
A:私が高校生の頃は、大学入試センター試験が行われており、筆記200点、リスニング50点という配分でその出来具合が明暗を分けていました。内容も大幅に変わったのですか。
校長:ええ。以前は、音声・語彙・語法・文法そのものを問う知識問題、小説では登場人物の心情の変化を読み取るもの、論説文では筆者の主張の読み取る読解問題が中心でしたね。しかし、2021年度からスタートした大学入学共通テストでは、リーディング100点、リスニング100点になり、コミュニケーション力重視の作問になりました。
A:そうなんですね。驚きです。もう少し詳しく解説していただいてもよろしいでしょうか?
校長:ええ。リーディングは完全な読解問題になりました。Situation(状況)は多岐にわたり、書籍、ウェブサイト、案内文、記事、ブログ、雑誌などが言語材料です。実践的な対話場面の中で、どのくらい英語を使えるのかを測る意味ではかなり工夫されたものと言えます。
A:使える英語というわけですか。リスニング問題はどのような感じなのでしょうか?
校長:イラストやグラフ、表が多く使われており、目的に応じた思考力・判断力が問われています。また、アメリカ人だけでなくイギリス人や日本人と思われる話者が含まれており、リアリティーのある設定となっています。第1問〜第2問は2度、第3問~第6問は1度しか読み上げられません。
A:本当に時代が変わったと思います。そのような変化に学校はどのように対応されていくのですか?
校長:学習者が一生懸命、勉学に取り組む状態のことを学習者エンゲージメントと言いますが、個別最適化された学びを通してそのような方向にもっていきます。Engaging Language Learners in Contemporary Classroomsの著者であるSarah MercerとZoltán Dörnyeiは、学習者の成長マインドセットとして、努力次第でさらに成長できると信じて前向きに取り組める自己肯定的イメージをもてるようにすること、さらに、生徒との信頼関係を築き、協働的な学びによって集団の成功体験を醸成することを挙げていますが、まさにこのレベルです。
A:具体的に英語が苦手な生徒にはどのような指導を展開されるのですか?
校長:1冊のテキストを年間で繰り返して使用するラウンド制指導、教師が読み上げた英文を直接、聞いて書き取るディクテーションなど、これまで試みられてこられた定評のある指導法を取り入れていけばよいと思います。最も大切なことは、教師が知識を伝達するティーチャーにとどまらず、生徒個々に「勉強のやり方」を教え、一緒に伴奏するファシリテーターの役割を果たすことでしょう。
A:私もそのような環境で勉強し直したいです。ところで、単語はどれくらい覚えなければならないのですか?
校長:専門家によれば、専門性の高いテキストが読めるようになるにはテキストに出てくる単語を95%以上知っていることが必要だそうです。専門書については4,000~5,000語の習得が第一段階、自力で読解を楽しめるようになるには8,000~9,000語のマスターが第二段階と言われています。
A:なかなか大変です。単語はどのようにすれば身につくものなのでしょうか?
校長:語彙は、脳科学の分野ではメンタル・レキシコンと言われますが、適切な使用に際どのような音素の組み合わせから構成されるのか、どのような意味に対応するのか、どのような形の構成を持つのか、文や句を構成する時にどのような規則に従うのかという情報が求められます。4技能のバランスよい学習の積み重ねがすべてということですね。
A:なるほど。いつも校長先生が英語を使える環境づくりが大切とおっしゃられ、実際、そうされている理由がよくわかりました。高校に入ってまとまりのある英文を読んだり、聞いたりできるようにする方法があればご紹介ください。
校長:同時通訳のトレーニングの一つにサイト・トランスレーションがあります。これは意味のかたまりごとにスラッシュ(/)を入れ、前から音読し、訳していくというものです。認知心理学では、人が瞬間的に記憶に保持できる語数をマジカルナンバーと呼び、「7±2」とか「4±1」と言われていますから、英語を語順のまま前から読み、理解する練習がいわゆる直読直解のスタートラインでしょう。
A:国立大学の個別試験などは、評論文読解が中心のようですが、対策はありますか?
校長:出題傾向を見る限り、内容説明や和訳、空所補充、語句の言い換えや整序、一致問題は相変わらずです。特に、評論文対策では、サイト・トランスレーションの中で、「A、即ちB」という「言い換え」、「A、例えばB」という「具体例」、「Aに対しB」という「対照・対比」、「A、だからB」という「因果関係」などをおさえたパラグラフ・リーディングが不可欠です。
A:先生方の授業改善という意味で、先生方に何か具体的なサジェスチョンはされているのでしょうか?
校長:アクション・リサーチという手法です。これは計画 →行動 →観察 →内省のサイクル、つまり、PDCAを回すことを奨励していますが、教師は自身が実践者であり、研究者であるという意識をもってもらうことです。ただし、これは教員個々の資質向上に主眼を置いたものなので、データ分析などの厳密さを求めるのではなく、自己研修の色合いが強いOJTと申し上げています。
A:たいへん勉強になりました。御校が注目される理由がよくわかりました。是非、校長ブログに再現してください。
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