校長ブログ
文理融合
2024.04.15
カリキュラム・マネジメント
4月15日
東大が、世界水準の研究者養成をめざし、2027年秋、文理融合型の教育課程を新設するそうです。授業はすべて英語、生物多様性や気候変動といった課題に向き合える人材を育成することをねらいとしています。
新学部に相当する名称はカレッジ・オブ・デザイン。5年間で修士まで修了できる欧米の大学のように、学部4年と修士1年を合わせた5年制です。定員は100名程度であり、半数は留学生とのこと。既存の学部生も授業を受けられるようにし、内外の企業や大学から研究者を呼び込み、充実した教育実践が構想されています。文理の枠に捉われず、興味・関心に応じてカリキュラム・デザインでき、企業でのインターンシップや留学なども用意されています。現在、東大の学部への留学生の割合は約2%、女子学生の割合も約2割ですが、2049年には留学生比率30%、女性教員比率40%という目標を掲げています。
文理融合については、新学習指導要領では教科横断という言葉でも表現されています。教育未来創造会議やこども未来戦略会議の有識者メンバーを務め、生物学者、起業家でもある高橋祥子氏は、文理分け不要論を唱えておられます。21世紀になってから、AIをはじめとする先端技術が発達し、経営、政治、行政など、いわゆる文系と言われる分野に科学や技術が必要な時代なっていることを考えれば、文理分けするこれまでの慣習がテクノロジー社会にプラスにならないと述べられています。
確かに、日本社会には長い間、文系・理系という概念がすり込まれ、バイアスのようなものがあるのは事実。科学の世界には、人文科学、社会科学、自然科学といった分類はありますが、文系・理系に相当する英語の表記はありません。文理の区分は、明治維新以降、近代国家へ進む過程で日本独自に培われてきたものなのです。
西欧社会から進んだ学問を導入するにあたり、日本は殖産興業や富国強兵を掲げ、国づくりに直結する実学優先の人材育成を最優先してきました。法学部と言えば官吏、工学部と言えば技術者といった具合です。そして、1918年、第2次高等学校令の「高等学校高等科ヲ分チテ文科及理科トス」が文理の壁をつくり、第2次大戦後、さらに文理のすみ分けが深まっていくのです。子供の数が増え、進学率も上がり、欧米社会に追いつき、追い越せという高度経済成長の時代には偏差値という言葉が生まれたのは周知の通りです。
1959年、イギリスの物理学者であるC・P・スノーが「二つの文化と科学革命」と題して講演し、文理の分断に警鐘をならしましたが、いまだ文理の壁が存在します。しかし、コロナ禍の感染拡大も、病原体そのものよりも人の行動が大きな影響を及ぼしたように、科学が立ち向かう領域は文系・理系の知を融合して探究する必要があります。グローバル社会では、ダイバーシティー(多様性)という名の下、時代の変容に合わせてこれまでの仕組みを柔軟に変えていかなければなりません。文理融合も重要な教育改革なのです。