校長ブログ
絶滅危惧種の保護
2024.02.20
教科研究
2月20日
世界では4万種以上、国内では3,700種以上の生物が絶滅の危機にあるそうです。海洋に生息する魚は絶滅危惧種が1%以下であるの対し、汽水・淡水魚は開発などの環境変化に影響を受けやすく、評価対象の約4割が指定されているとか...。今、先端技術を駆使した挑戦が続けられています。
吉崎悟朗氏(東京海洋大学教授)らは、卵や精子のもとになる生殖幹細胞の凍結保存によって、魚類を保護する方法を研究されています。人間の不妊治療では卵子を凍結保存する方法が使われてきましたが、魚類の場合、これまでは個体そのものを残すしかありませんでした。
そこで凍結に支障がない卵になる前の生殖幹細胞に着目、これを注入し、卵巣や精巣にたどり着き、卵や精子になるのを待ち、近い仲間の魚に移植、代理の親になってもらうことを考案しています。実際、ミヤコタナゴの凍結保存では、アブラボテという魚に生殖幹細胞を移植すると、ミヤコタナゴの卵や精子ができ、受精すると正常な次世代が生まれたそうです。
また、生殖幹細胞は死後でも24時間以内なら採取でき、培養でほぼ無限に増えるため、種をつなげることが可能であることがわかっています。絶滅の危機にあっても元の環境を取り戻すことができるようになったのです。しかし、魚類の凍結保存はできても哺乳類や鳥類などでは難しいとのこと。そこで、林克彦氏(大阪大学教授)らはキタシロサイの体の細胞から万能細胞のiPS細胞を経て、卵子や精子のもとになる細胞を作り、そこから卵子を作ろうとしています。
iPS細胞は使える範囲が広く、一部、培養条件を調整したり、遺伝子組み換えではない手法を使ったりする必要があるものの、多くの生物に適用でき、鳥類ではヤンバルクイナやライチョウなどがその事例となっています。
キタシロサイは、ケニアに生息しますが、野生では絶滅し、保護区にメスが2頭しかいませんが、細胞や精子は保存されています。ここから卵子を増やすことができれば、近いミナミシロサイを代理の親にして次世代につながることができるわけです。実際、ミナミシロサイはかつて100頭以下まで減少しましたが、2万頭まで回復しています。
現在、環境省のレッドリストに載る127種、約5千個体を凍結保存する「タイムカプセル化事業」が国立環境研究所によって推進されています。しかし、体の細胞がほとんどで生殖細胞でないのが実態であり、iPS細胞を使いこなす必要性に迫られているようです。
林教授は、1頭の材料だけなら復活してもすべてがクローンになってしまうため、遺伝的な多様性を維持しながら増やすことが大切と述べられています。同時に、絶滅した生物を復活させることは倫理的に正しいのかという問題もあることを付言されています。