校長ブログ

AIが人間の労働を代替したとき...

2024.02.13 EdTech教育
2月13日

 先進国における所得格差と低成長が問題となっています。貧困地域での支援策を実験に基づいて見つけ出す手法が評価され、ノーベル経済学賞を受賞したアビジット・バナジー氏(マサチューセッツ工科大学教授)は、AIによって雇用が失われるかもしれない未来に対し、AIを教育に活用する公的投資の必要性を述べられています。

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 世界では、上位10%の富裕層が富の76%を握り、下位50%の低所得者層は2%と言われています。今、テクノロジーが先進国と途上国の温度差解消が期待されています。実際、情報技術など、高度な技能を持つ者の賃金が上昇している点を考えればうなづけます。

 バナジー教授は、市場がグローバルに統合され、ビジネスが成功したときに得られる富が莫大であると述べられています。つまり、テクノロジーによって成功の度合いが変わり、所得分配が変化するというわけです。

 AIが人間から仕事を奪う可能性については、仕事の一部を外部委託する例を出し、この分野はインドに大きな業界が形成することを指摘しています。そして、低・中級技能の雇用が失われることを想定、失職した人のうちどれくらいスキルアップし、新しい仕事に就けるよう支援するかを目途に、AIをどれくらい教育に活用できるかという命題を掲げています。

 AIの導入課題として、教師の質に差がある以上、AIが最高の教師、言い換えれば、教材を説明だけでなく、到達度や性格に合わせた指導法に変えるべきとしています。この点は、AI教材を最大限に活用して、個別最適化の中で生徒個々をファシリテートすること、つまり、勉強のやり方を教えるという視点と重なります。

 教育に加え、福祉分野での可能性を挙げ、特に、医療分野において、問診内容をAIが読み取って適切な指示を出せるように、さらに公的な投資が不可欠と考えています。しかし、実態としては、導入が遅れており、テクノロジーが社会に望ましいことのために使われることを認識してもらわなけばならないとしています。同時に、その利便性とともに、何のために生きるのか、そして、幸福度が上がっているか問い続けることが突破口になることを言及されています。

 確かに、スマートフォンが社会に浸透したことで、情報に関して容易にアクセスできるようになりました。しかし、情報環境が豊かになったから幸福度が上がったとは言えません。幸福度が仕事や賃金と結びついている以上、AIが人間の仕事を代替することによって幸福度が下がってしまうとも考えられるのです。

 近代以降、人は働くことで自分の時間を創り出てしてきました。AIが人間の労働を代替し、働かなくてもよい社会になったと仮定したとき、テクノロジーをどのように人の幸せにつなげるかを探究することがポイントと言えるのではないでしょうか?