校長ブログ

売らない店

2023.06.20 トレンド情報
6月20

 ショールーム機能に特化した「売らない店」が拡がっています。いわば、出展料をもらってスペースを貸す店舗運営代行のこと。企業が蓄積してきた情報、技術やノウハウをかけ合わせた小売のサービス化を意味するRaaSRetail as a Service:リテール・アズ・ア・サービス)のようなものです。

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 「売らない店」がコロナ禍の影響を受けたのはまぎれもない事実。米国では日本進出を断念したところもありましたが、ベータ・ジャパンのように商標権を取得して独立、日本に進出しているところもあります。逆に、高島屋のように、日本発の体験型小売りモデルを磨き、アジア進出を計画しているところも見受けられます。

 コロナ禍で、電子商取引(EC:Electronic Commerce)と店舗の相乗効果をねらう体験型の小売りモデルが普及しましたが、さらなる浸透には買いたいと思わせるような工夫が不可欠。米国のスタートアップ企業は自社の店舗だけでなく、運営ノウハウの外販を始めていますが、百貨店も相次いで参入すると言われています。

 大阪で開店したb8ta(ベータ)は、リアルとネットを融合する「コミュニケーションリテイラー」を掲げ、新商品の展示・体験コーナーを備える常設店を呼び込んでいます。体験型店舗であるベータ・ジャパンは米国西海岸発、東京、埼玉、大阪に出店、約700社の商品を展示しているそうです。そして、市場調査や認知度向上に向けて、AIカメラで商品前で立ち止まった客数などを測定したり、客から聞いた感想を付け加えてメーカーに伝えるといった工夫もされています。高島屋など、国内の企業も新宿や京都に「ミーツストア」を開店しています。

 デジタル化が進む中、EC市場規模は拡大していますが手触り感のなさがあるようです。しかし、百貨店はこうした「ショールーミング」に注目し、店舗とECの連携を模索しているとのこと。ECをうまく使いこなせない大手メーカーは売らない店に期待を寄せています。

 しかし、客層とのミスマッチや店頭で体験した後の購買行動が弱いなど、課題もあります。ある調査(カルタコミュニケーションズ)によれば、「売らない店」に出した男性用化粧品を検証すると、実際に購入する客の割合は1%未満~3.5%と立地による客層の差によってばらつきが見られるとのこと。それならば、新商品の認知度をアップさせ、客の反応を集めることが最優先。そして、ポップアップストア(期間限定店)などに移行して実売することが得策ということになります。

 「売らない店」は今後も拡大する見通しのようです。コロナ禍を経て店舗の役割が問い直される中、物販から体験へシフトする流れが定着するかどうかはわかりませんが、最適解を探るチャレンジはどの分野でも共通のようです。