校長ブログ
ゲノム解析による創薬
2023.05.17
トレンド情報
5月17日
微生物が作る天然物から医薬品が生まれています。これまでは微生物がもつ遺伝子の一部しか創薬に使えませんでしたが、ゲノム(全遺伝情報)解析が進んだ今、新たな医薬品が生まれる可能性が出てきました。
微生物がもたらす新薬の元祖は抗生物質のペニシリン。歴史的には、アレクサンダー・フレミング(英)がアオカビから発見、ノーベル賞を受賞しました。日本では、大村智氏が抗寄生虫薬イベルメクチンにつながる微生物を発見しています。
天然物を作る遺伝子を突き止めることができれば、他の微生物に入れて天然物を合成することができるわけです。大西康夫氏(東京大学教授)は、さらなる未知の遺伝子の掘り起こしができるはずであり、微生物には多くの可能性があることを示唆しています。また、すでに発見された微生物でも遺伝子は2割程度しか働いておらず、残りの8割は眠ったままで機能も分からないそうです。同氏は、未知の遺伝子を目覚めさせるゲノムマイニングという技術に注目、新しい天然物を合成し、治療が難しい病気などに使える新薬の開発につながるようとしています。
医薬品が効くかどうかは化合物の構造次第。当然、選択肢が多いほど新薬に出合う可能性は広がります。分子を組み替える化学反応やAIによる予測でも新薬の候補は人工合成できるそうです。浅井禎吾氏(東北大教授)は、糸状菌で眠る一部の遺伝子から22種類の天然物を作り、アルツハイマー病の原因になるタンパク質の凝集を防いだり、ガンのもとになる幹細胞が増えないようにしたりすることに成功しています。
様々な生物のゲノムを解析する次世代シーケンサーによれば、地球上に存在する微生物のうち、ゲノムが解析されたのは1%未満。早稲田大学発スタートアップのビットバイオームは、一滴の液体に微生物を1匹ずつ閉じ込めてゲノムを読む独自技術を開発に成功、培養が難しくても遺伝子を探れるようにしました。また、微生物のゲノムを月に1億のペースで解析し、8億もの遺伝子データベースを構築しています。
今後の目標は、微生物のゲノムが作る天然物をAIやロボットで探索すること。研究開発の道は険しいものですが、身近な微生物が創薬に寄与する可能性があるのです。