校長ブログ
人格のある車
2023.04.29
トレンド情報
4月29日
AIが進展するにつれて、クルマはその可能性を広げ、新しい価値を生み出す存在になりつつあります。しかしその反面、AIが人間の判断力を超えるのかという倫理感が問われているのもまた事実なのです。
例えば、2台の自動運転車が衝突までわずか0.5秒という極限状態に置かれた場合、もはや人間の反射神経では対応できません。しかし、どんなにAIが万能でも救えるのは1台のクルマだけ。日本のSF小説「Final Anchors」(八島游舷著)には未来社会をテクノフォビア(科学技術への嫌悪)に染めることなく、技術の進歩で起きうる問題、論点が浮き彫りにされています。
ソニー・ホンダモビリティはゲームやセンサーの技術を使った現実世界と仮想空間の融合を試みています。SF小説のクルマにはまだ及びませんが、AIを搭載し、クルマに人格をもたせ、新しい価値を与えようとする模索が続いているのです。また、米国のテスラは、AIが開発した新機能をソフトウエアで更新し、購入したばかりの車を自動運転車に近づけていくサービスを構想しています。
そのような場合、想起されるのは倫理学でいうトロッコ問題。トロッコとは路面電車をめぐる二項対立のこと。例えば、走行中の路面電車が制御不能になり、そのままでは前方の作業員10人がひかれてしまうという局面に陥ったとします。分岐器の近くにいる人が進路を切り替えれば、10人は助かりますが、切り替えた先の線路上では別の作業員が1人働いているのです。その時、救うべきは10人か、1人かといった問題が生まれるのです。
このようなジレンマを考える上でトロッコ問題は、車載用AIの人格、すなわち判断基準を設計する際に活用されることが想定されています。専門家によれば、AIは一緒に過ごす時間が長いほど主人の指示や好みをたくさん記憶し、行動を習得、状況に応じて注意喚起したりするそうです。クルマの場合なら、1台1台がスキルと個性を獲得するようになるわけです。しかし、現実的な問題として、間瀬健二氏(名古屋大学名誉教授)は、「あくまで、それらしく見えるレベル」と述べられています。いずれにせよ、20世紀のモータリゼーション以来の社会変革になる可能性があるトピックです。