校長ブログ
ジェンダード・イノベーション
2023.04.17
トレンド情報
4月17日
女性研究者の視点を盛り込んだ技術革新によって、新たな市場誕生が期待されています。しかし、OECD(経済協力開発機構)の調査(2019)によれば、日本では大学などの高等教育機関に進学した学生のうち、STEM分野を専攻する女性の割合は自然科学(27%)と工学(16%)の分野だけであり、加盟国36カ国中、最下位。総務省の調査(2020)では、日本の科学技術分野での女性研究者の割合は17.5%と低いものになっています。
肥満を抑制する効果があるとされるオステオカルシンという物資効果に性差があることを発見した溝上顕子氏(九州大学大学院准教授)は、従来の実験ではオスしか使われなかったものの、ご自身が女性であり、マウスにメスを使ったらどうなるのかと思ったことがきっかけで成果につながったとおっしゃっています。そして、オスを中心とした動物実験などのデータ蓄積について一石を投じ、知識の再定義を説き、アルツハイマーについての性差研究を進めておられます。このように、バイアス(偏向)を見直すことで研究の質を高め、技術革新につなげようとする考え方かジェンダード・イノベーションなのです。
AI分野では、設計が男性中心になると、データ収集、アルゴリズムの設計や運用などの段階でバイアスが入ってしまい、女性やマイノリティーに不利益をもたらすことが共有されています。欧州委員会は、助成対象となる研究には性差を考慮した分析を組み込むことを義務づけており、欧米で広がっています。ネイチャー誌も論文に性差を考慮したかの記述を求めています。
日本ではお茶の水女子大が、ジェンダード・イノベーション研究所を設立、民間と産学協同による研究をスタート。デル・テクノロジーズはテクノロジーを取り入れた女性起業家を応援するコンテストを開催。国内では初めての取り組みで、ファイナリスト10名は農業や医療など、分野は多彩です。
近年では女性が理系を苦手にするというバイアスを解消し、STEM分野を女子中高生の進路の選択肢にいれるべく、ロールモデルや理系分野を学ぶ意義などを伝える取り組みが広がっています。内閣府が公立の中2を対象に行った調査では、女性保護者が文系の場合、女子生徒の進路は(どちらかといえば)理系が約22%である一方、理系の場合は約42%となっており、ロールモデルが進路に影響を及ぼすことが指摘されています。しかし、理系出身の母親が少ないのが実態であり、理系人財は研究者に限らず、企業でも男性が多い現状を鑑みれば、国レベルでの対応が余儀なくされていると言っても過言ではないのです。