校長ブログ
新コース立ち上げ特集㉙-未知語類推の前提
2022.11.05
グローバル教育
11月5日
英語を読んでいると未知語、つまり、知らない単語に出会うのが常。当然、文脈から類推しなければならないのですが、Laufer(1989)によれば、専門性の高いテキストがある程度読めるようになるにはテキストカバー率(学習者が知っている既知語のこと)が95%以上必要だそうです。また、Hirsh and Nation(1992)は、95%のカバー率を得るには4,000語のワードファミリー(基本形、屈折形、短縮形に派生形を含めて1語とする数)が不可欠と述べられています。
様々な研究結果をまとめると、専門書の一応の読解が可能になるカバー率95%に向けて、語彙数にして4,000~5,000語の習得が第一段階、続いて、"自力"で読解を楽しめるようになるには8,000~9,000語のマスターが第二段階ということになります。ちなみに、日本語の場合、基本単語の上位1,000語をマスターしてもカバー率は60%台、上位3,000語でも75%程度ですが、英語の場合、上位1,000語をマスターするとカバー率は80%を超え、上位3,000語を超えると90%だそうです。
Schmitt(2000)は、文脈には未知語の意味を推測できるだけの手がかりはないこと、未知語の近くにある手がかりは見つけやすく、離れている手がかりは見つけにくいこと、さらに、スペリングや音声が似ている単語との取り違え、外来語として定着した語の意味や音声変化による取り違え、テキストの社会・文化的背景の不足による取り違えなどを指摘しています。
いずれにせよ、未知語の類推に向けては、語彙力を強化するだけでなく、文脈から正しい意味を推測するスキルを身につけなければなりません。文章を理解するということは、テキストとの相互作用の中で、読み手の心の中に心的表象(mental representation)、つまり、一貫性のある意味世界を作ること。そのメカニズムをモデル化したものが、文字入力→単語→文→パラグラフ→文章という段階を経て処理されるボトムアップ処理、背景知識やテキスト構造の知識を利用して単語や文を理解するトップダウン処理ということになるのですが、実際には、両者の相互作用により心的表象が構築されていくのです。