校長ブログ
新学習指導要領における高校国語
2022.05.10
教科研究
5月10日
学習指導要領の改訂において、高校国語の「現代の国語」と「論理国語」では、実用重視の教育政策によって小説などのフィクションを取り扱うことがなくなりました。その中で、文学における論理性も含めて教材の幅を狭めることへの不安感が囁かれているのも事実です。
文科省が高校の新学習指導要領を告示したのは2018年ですが、実際、高校の国語が大きく変わったのは今年から。2019年に出た解説には「生涯にわたる社会生活における他者との関わりの中で伝え合う力を高め、思考力や想像力を伸ばす」ことが目標のひとつとして掲げられており、科目編成としては、必修科目が「現代の国語」「言語文化」の2科目になり、選択科目が「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の4科目とされています。
小倉孝誠氏(慶応義塾大学教授)は、社会や他者との関わりの中で、生徒が主体的に自分の考えを伝達する能力を育むことを鑑みると、新学習指導要領の方向性には懐疑的にならざるをえないと言及しています。そして、最大の問題として「論理国語」と「文学国語」という選択科目が分離していることを指摘。同氏によれば、前者は「論理的な文章」「実用的な文章」、後者は「文学的な文章」を扱うことになるものの、文学作品を解釈すること自体が論理的な作業であり、科目と教材の細分化は思考力、判断力、表現力などを総合的に育むという国語科の目標にそぐわないだけでなく、複雑化する世界を理解し、多様な知と交流していくためには疑問符がつくとのこと。また、アジアや欧米の高校における国語教育のように、科目の細分化をなくし、文学、哲学や思想等を教科横断的に解釈、分析することによって、クリティカル・シンキングする力を深め、自らの考えを表現することを高めることが重要であるとしています。
OECDによる学習到達度調査(PISA)によると、2015年、2018年と日本の生徒の読解力は平均点、順位とも下降し続けています。加えて、多くの高校教員が文学を好み、作品鑑賞に重点を置きたがる傾向がある点も俎上に載せられています。同氏らは、次回の指導要領改訂を見据え、必修科目として、「総合国語」を設け、思考力、判断力、表現力等を体系的に育むこと、選択科目として、問題提起的な様々なジャンルの教材を論理的に分析、それについて発表する「思考と言語」、文学、評論、思想を横断した教材を用いて言葉への関心と想像力を育む「言語と創造」を設けること、さらに、「古典探究」を「言語文化」に改編、近世や近代の文章にも触れながら我が国の伝統文化を学びつつ、データベース、視聴覚教材、古典芸能の鑑賞などを通じて古典教育の充実を図ること等の提言をされたようです。
人間が言葉を用いて思考し、表現し、行動する以上、言語教育をめぐる展開は外国語教育やその他の教科にも波及することは自明です。本校においては、教科横断的なアプローチによって、思考力、判断力、表現力を総合的に養うのと同時に、学びに向かう力や主体性育成も含めた"学びの3要素"を視座にしたカリキュラム・マネジメントを実践していこうと思います。