校長ブログ
注目される研究領域①:合成生物学
2022.02.22
トレンド情報
2月22日
謎に包まれている生命の起源に迫るべく、様々な議論が繰り広げられてきたのは古代ギリシャの時代から。近年、科学技術が発達し、遺伝子の構造や仕組みなどが解き明かされるにつれて、論点はRNA(リボ核酸)やDNA、たんぱく質といった生体材料が中心になり、現在のDNAを中心とする生命活動という結論に至っています。しかし、生命が誕生したとされる約40億年以上前の岩石や化石はいまだ発見されておらず、地質学的な証拠もなく、さらに解明すべき点が多い中、今、合成生物学という分野が注目を集めています。
細胞の主要な部分を組み合わせて人工の細胞を作り出すという合成生物学は、生命の起源を解明する突破口となる可能性があり、日本でもすでに多くの専門家が研究に着手、成果が生まれつつあるのと同時に、産業応用をめざすアイデアまで出ているそうです。
生物を人工的に作り出そうという研究が始まったのは20世紀中盤。研究は無機物から有機物を作り、細胞のような粒の中に閉じ込める段階まで進みますが、そこから先、どのように生命へ変化させるのかについての解明は停滞します。しかし、科学技術の進展に伴い、遺伝子解読やたんぱく質合成、コンピューターによる分子設計など周辺の技術が発達し、ヒトゲノム解読による細菌遺伝子の人工合成と別の細菌への移植による自己増殖に成功、これが合成生物学の研究につながっていったとのこと。
最初の生命は熱水が噴き出すのは海底であり、岩肌に開いた無数の穴の中で生まれたという説がありますが、生命の仕組みは極めて複雑であり、生命と呼べる細胞がすぐに合成できるわけではありません。しかし、現在、経産省は、研究拠点が居並ぶ欧米同様、様々なトライアルを通じて「超ミニ工場」のような人工細胞を作れるかもしれないという期待を込めてチャレンジングな事業を推進しています。生物の定義について、人工細胞分野の専門家は「自分と外界との境目をもつ」「外部から物質を取り込んで利用する(代謝)」「複製して増える」が必要と考えていますが、生命誕生を人工的に再現する実験を研究者だけの判断で進めてよいのかという課題もあり、今後、倫理観やルールのあり方の調整が不可欠。新しい研究分野での進捗状況を見守っていきたいものです。