校長ブログ
大学入試改革を考える
2021.11.20
大学進学研究
11月20日
今回は、大学入試改革について、ジャーナリストであるMさんとの対話からの一コマです。
Mさん:明治以来の大改革という触れ込みで始まった教育改革ですが、報道を見る限り、混迷していますね。校長先生はどのように見ていらっしゃいますか?
校長:試験の形式や内容を「脱知識偏重」「脱1点刻み」「脱一発勝負」に変えようという方向性は正しいと思いますが、現実の制度に落とし込むのはまだまだハードルが高いような気がします。例えば、「大学入学共通テスト」における複数回実施は受験対策の早期化や学校行事への影響を考えるとクリアすべき問題が山積しており廃案。高校教育の質保証のための「高等学校基礎学力テスト」も結果的には入試に使わない「高校生のための学びの基礎診断」に落ち着きました。
Mさん:以前のセンター試験を使った入試制度についてどのようにお考えですか?
校長:画一的な試験で偏差値による大学の序列化を加速させ、必要な内容だけを効率よく学習するという弊害は引き継がれているものの、「共通一次試験」から「大学入試センター試験」への変遷の中で、内容や作問に工夫が重ねられ、思考力を問う良問も多くなってきたように思います。マークシートでも思考力は問えるというのが率直な感想です。毎年、約50万人が受験しているというにもかかわらず、大きなトラブルもなく実施されており、短時間で採点できていることは評価すべきではないでしょうか?ただ、約50万人といっても、そのうちの約10万人は成績を大学に出さずに進路選択をしているという現実もおさえつつ、よいところは残し、改めるべきところは改める、つまり"不易流行"の姿勢が求められると思います。
Mさん: 英語の民間試験活用の廃案についてどう思われますか?
校長:英語の民間試験について言えば、地域間格差と経済格差が問題になりましたが、これは民間試験に限ったことではありません。難関と言われる大学に入ろうとすれば、早い段階からトレーニングを受けられる環境、例えば、子どもの頃から通塾できる教室の多い都市部に住んでいた方が有利という点などはいかんともし難く、この格差構造が変容しないと社会の活力が失われてしまうような気がします。ただ、英語のことで言えば、問題視されているのは試験の形式のことであって内容ではありません。英語教師ならだれもが、生徒の英語コミュニケーション力をつけたいと思っているのは自明ですから、新学習指導要領における英語4技能のバランスのとれた指導という方向性は正しいと思います。しかし、これまでも4技能のバランスのよい英語教育が標榜され、様々な施策が試みられてきたものの、期待されるような成果が得られていないのもまた事実。有識者から疑問の声が挙がるのは当然です。世界のトップに位置する大学に入学するには英語力がCEFRレベルのC1、入学準備コースでもB2が求めているのに、日本は...といったような声が上がるのはわかるような気がします。ただし、その原因を大学入試だけに求めるのではなく、英語教育のあり方そのものを精査すべきだと思います。大切なのは、生徒が英語を話せる環境を作り、知的好奇心を刺激するような仕組みづくりをすることではないでしょうか?
Mさん: 御校では大学入試改革の状況を見ながらどのような対応を考えられていますか?
校長:今回の教育改革を見ていると、議論の対象が到達度の高い生徒を軸としており、現場は制度変更に振り回され続けた感じがします。英語の民間試験活用だけでなく、国語・数学の記述式問題の見送りも決まりましたが、到達度が高い生徒はそのようなことにはあまり関係ないように思います。一方、到達度が高くない生徒は、分量が多い文章を読み切れず、記述式は最初からお手上げになってしまうかもしれません。また、少子化の影響で受験生確保が最優先される大学で学力不問状態の学生の入学が増加している現状を鑑みれば、今後、ますます慎重審議が必要とされ、最終的にはそれ相応の形に変化していくのでしょうが、「明るく楽しい女子校」をめざす本校では、建学の精神に照らし合わせた教育活動を実践し、生徒一人ひとりの夢を叶えていけるよう努力していきたいと思います。
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