校長ブログ
校長室の本棚から①
2021.11.18
トレンド情報
11月18日
S・ルシュバリエ氏(仏国立社会科学高等研究院教授、EHESS日仏財団理事長)は、著書『Innovation Beyond Technology』の中で、テクノロジーによるイノベーションは、競争力強化というよりはむしろ、人間の幸福を追求するために不可欠という視点に立ち、ヒューマン・ファクターを基盤とする人文社会科学の重要性を謳っています。
近年、イノベーションに投じる資源が増加しているものの、生活満足度は下がっており、費用対効果が見合っていないと言われているのもまた事実。イノベーションによる創造性によって、ある一方では発展的解消が期待できるものの、他方ではネガティブな側面をもたらす二項対立的な現象も起きているのです。
著者は、医療技術が日進月歩の発展を遂げる一方、病院では患者のケア・苦痛緩和等に課題が残されている事例や原発事故における事後処理のあり方と自然・技術・社会の関係性に関する事例等を挙げています。さらに、イノベーションに与えられる優先順位も公の場で十分に議論されないまま決められていることなども指摘されています。
問題提起の起点は、1999年、UNESCO主催の世界科学会議で「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」(ブダペスト宣言)がなされたこと。ネイチャーの「科学バブルを超えて」(2017)でもイノベーション政策は社会技術システム全面の転換を図り、成果をもっと社会的ニーズに対応するものにすべきだと主張されています。
かつて日本は技術立国と評され、その生産性が欧米企業を上回った背景には、技術的イノベーション以上に組織イノベーションに依存していたと考察。日本企業が社員の成長に投資し、会社へのロイヤリティを育んでいることに着目、組織の理念を支えるのが自動化や機械化ではなく、生産の各段階に対応できる人を育成したからだと論及されています。
しかし、80年代末以降、日本が技術競争に力点を置き、イノベーションこそが「知識経済社会」の原動力になると見なし、現代的危機を救うものとして様々なリソースを投じている現状に疑問を呈しています。投資は生産性向上のための技術開発だけでなく、科学、技術、社会をどう統合するかという知の創出と人的資源管理が必要とまとめられています。これは学校経営にもあてはまります。