校長ブログ
学力到達度とテスト理論
2021.11.10
トレンド情報
11月10日
2年ぶりの実施となった小6・中3を対象とする全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が公表されました。小学生の国語は自分の考えを表現したり、文章と図を関連づけて理解する力に課題、データの活用力をみる問題が出題された算数は判断の理由を数学的な表現で説明することに課題があることが指摘されています。
コロナ禍における休校期間と学力の間に関連が見られなかったという報道が多かったものの、川口俊明氏(福岡教育大学准教授)は、学力調査では国際的に後れを取っていると述べられています。また、休校の影響を把握するには休校前後の学力を比べた上で議論しなければならないとも言及。さらに、全国学力テストは、10問中7問正解したら70点といった具合に正答率を計算する形式になっているため、前年が70点、今年が80点でもテストが易しくなった可能性もあり、一概に、学力の変化を見ることは難しいとしています。
同氏は、内容の異なるテストを比較して学力の変化を見るには、共通のテスト項目を含め、受験者の反応を手がかりに得点を調整する作業が必要であり、そのためには国際標準となっている項目反応理論(IRT)が不可欠と言及しつつ、共通のテスト項目は秘匿されていることが条件であり、これが公開されるとテスト対策が行われ、調整は失敗するとも言われています。
日本は全国学力テストを10年以上も実施しているにもかかわらず、学力の変化すらほとんど把握できていないという指摘もあり、結果、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)や、国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)といったIRTが実装されている国際調査のデータをエビデンスとして活用するケースが多いのは事実です。
全国学力テストについては、身につけたい力を発信してはいるものの、到達度や学力推移を客観的に把握するには課題があるため、海外でデザインされたテスティングに依存しているのです。文科省の専門家会議は、全国学力テストと経験変化調査の2つを実施する提言を行なったとのこと。日本社会には子どもの貧困や学力格差など、深刻な問題が横たわっています。DX化が進む中、これまでのテスト文化に一石を投じるテスティングの理論構築が不可欠なのです。