校長ブログ

文理融合

2021.09.09 教科研究
9月9日

 地球温暖化など、山積する複雑なテーマに対し、多方面からアプローチするために、自然科学や人文社会科学の分野を越えた「文理融合」による研究活動や人材交流が推奨されています。

スクリーンショット 2021-08-30 10.14.30.png

 歴史的に見れば、西洋の新しい学問が日本に流入したのは江戸時代であり、文系・理系の区別が出てくるのが自然科学を中心に専門化が進んだ明治時代。

 文豪として名高い森鴎外は、幼い頃から漢学とオランダ医学を学び、数学・物理・化学といった分野にも造詣が深く、『大発見』『カズイスチカ』『妄想』といった作品等からはその一端が読み取れます。一方、夏目漱石は、10代で漢文学を学び、数学が得意で、建築家をめざしたとのこと。『漱石が見た物理学』(小山慶太著)では、漱石が相対性理論に興味・関心を示し、『吾輩は猫である』では力学、『三四郎』では光線の圧力測定の実験が描写されていることが指摘されています。

 大正時代になると、富国強兵、殖産興業を支える人材育成に向けて、学問分野が高度専門化され、文理系の区別がより鮮明になってきます。1900年代初頭には、大学入試において文理選択が定着、高度経済成長期を迎えます。しかし、時代は過ぎ去り、専門分化に対するリスク回避に向けて、リベラルアーツ(基礎教養)が重視されるようになります。そして、紆余曲折を経て、学際的研究が進められ、文理融合型の学部が生まれるというトレンドに至るのです。

 米国でも基礎教養を軸とした文系科目とSTEM(科学、技術、工学、数学)を中心とした理系科目がありますが、今や、文理融合はハイテク産業においてイノベーションを生み出す手段と考えられています。

 今回のコロナに見られるパンデミック(世界的大流行)に対処していくためには、医学、ウイルス学だけでなく、数学、経済学、社会学などの知見も必要です。ニコラス・クリスタキスの著した『疫病と人類知』(庭田よう子訳)には、Afterコロナの世界における生活様式の変容に伴い、文理融合による技術革新が想定されています。(寺田寅彦氏の『科学と文学』、井堀利宏氏の『経済学部は理系である!?』なども一読をお勧めします)

 専門主義に陥ることなく、教科横断的アプローチを進め、正解のない難問に立ち向かう真の実力を養うために、生徒諸君には、分野を問わず、様々な本や資料を読み取る力をブラッシュ・アップしてほしいと思います。