校長ブログ

個別最適化学習の原点

2021.08.07 カリキュラム・マネジメント

8月7日

 「改革元年」にあたる本年度、本校では、生徒一人ひとりの夢の実現に向けて、"学びの選択"を積極的に導入し、個別最適化学習(アダプティブ・ラーニング)を推進しています。今回は、個別最適化学習について自己調整学習(SRL:self-regulated learning)という概念を用いて説明します。

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「神戸山手女子中高版 自己調整学習モデル」

 SRLは目標を設定し、自らが学習計画の進捗状況を振り返り、さらなる学習を進めていくというPDCAサイクルを学習に応用したモデルのこと。これは、1990年代からアメリカの教育心理学者であるバリー・ジマーマン(Barry Zimmerman) らによって提唱されたものです。

 SRLの考え方は、勉強ができる子供というのは生まれながら身についている能力や教育環境によって決まるのではなく、学校や社会の中での学習者の前向きな取り組み、つまり、学習者が自ら"主体的"な関わりをし、いかにして目標を達成しようとしたかを重視します。当然と言えば当然のことなのですが、いざ実行に移すとなるとなかなかできることではありません。ちなみに、SRLという言葉が定着し始めたのは1980年代であり、時代背景として、科学技術の進歩、グローバル化に伴い学校教育だけでの対応が難しくなったこと、国民の学習意欲が高まり、生涯学習を通じて自己啓発が再認識されたこと等が挙げられます。新学習指導要領でいうと「学ぶことに興味や関心を持ち、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」の部分、本校の建学の精神の一つである「自学自習」に相当します。

 ジマーマンらは、SRLについて「メタ認知」「動機づけ」「行動」が相互に機能することによって効果的な学習成果がもたらすと考えています。メタ認知とは、目標を設定し、計画を立て、各自で学びの状況を点検する「モニタリング」と理解度や到達度によって自分で学習法を修正し、「コントロール」していくこと。動機づけとは勉強のやり方を工夫することによって学ぶ意欲を高め、自己効力感を生み出すこと。行動とは、学習に適した環境を選び、必要な情報や援助を求めるなど、目的をもった具体的な取り組みをすることを意味します。換言すれば、学びに対する努力が成果に結びついたことを理由づけするエビデンスになれば、自信につながり、学習動機を維持していけるというわけです。

 自己調整がうまくいくかどうかは本人次第とはいうものの、その成否は「やればできる」という、自分を突き動かすモチベーションにかかっています。同時に、勉強を進める過程において、調子のよい時は別として、やる気が出ない時やスランプの時でも途中で投げ出さず、自分を励まし、地道な努力を重ねていく柔軟な姿勢も求められます。

 ジマーマンらは、さらにSRLのモデルとして、「予見→遂行コントロール→自己省察」という3段階のサイクルを設定しています。「予見」は学習の前段階にあたり、興味・関心の喚起に加えて、行動開始を促します。「遂行コントロール」の段階では学習方法を実行に移した後、それがうまくいくよう集中度を高めたり、順調に進んでいるかどうかを振り返るといった調整作業が求められます。「自己省察」の段階では、各自の取り組みに対する振り返りによる "気づき" につなぎ、循環的なプロセスとして、次の「予見」の段階に反映させていくのです。

 SRLにおいて重要なのは、学習者が困難に直面した時の足場かけ(scaffolding)、つまり周囲の手助けです。手助けといっても生徒によって時期や場所、方法なども違ってくるので、適切性という観点からもコミュニケーションによる「やり取り」を通じて、指導者と学習者、もしくは学習者同士が互いに影響しあうような関係性を創り出すことがポイントになります。本校の教育活動においても「チーム学校」となって生徒一人ひとりの夢の実現に向けて、scaffolding になれるよう努力していきたいと思います。