校長ブログ
人工意識
2021.07.15
トレンド情報
7月15日
「意識」と言えば、これまでは議論されてきた領域は、主に、哲学や心理学でしたが、近年では自然科学の分野における研究も進められているそうです。例えば、脳の活動を観察する装置の利用と共に、情報分野の理論も加わり、電子回路に宿る「人工意識」を目指す研究等がそれにあたります。
歴史的にみれば、1990年代から神経科学の分野で研究が重ねられ、AIの急速な発展に伴い、意識の研究に大きな変革が生まれました。意識は視覚や触覚などの五感を通して蓄積されるものであり、計算機の処理手順に相当するとされています。意識は「心」と深く結びついているものの、体の中の分子や神経回路の集合体からいかに生じるのかはまだはっきりしていません。
渡辺正峰氏(東京大学准教授)は、「意識」を生み出す仕組みを突き止めてコンピューターに移植する「意識のアップロード」に取り組まれています。具体的には、スタートアップ企業であるマインド・イン・ア・デバイスと連携し、マウスを使う実験を計画中とのこと。
動物の神経細胞と電子回路を接続する実験は、すでに内外で成功しています。渡辺氏らは、マウスの視覚を担う部位に電子回路を接続して視覚情報を共有できるかどうかを調査。これは右目と左目の視覚を担う部位のどちらか半分を電子回路に置き換えてつなぎ、神経細胞の回路網と一体となって機能する手法を確立するものであり、将来、意識を移植する基盤になると考えられています。
意識は科学的に観測することができませんから、自然科学では扱いにくいものです。しかし、DNA構造の解明でノーベル賞を受賞したF・クリックが1990年代、C・コッホと共同で神経細胞の活動を観察すれば意識は研究できると論究しました。また、免疫学者でノーベル賞受賞者のG・エーデルマンやブラックホールの予言でノーベル賞を受賞したR・ペンローズも意識の研究に注力しています。最近では、fMRI等、脳の観察データが増加し、深層学習とともに、数理理論も発展、意識の有無を判定する「統合情報理論」や脳の動作原理を解明する「自由エネルギー原理」などが提案されています。多くの国の研究者が2018年、「スクルドネット」という組織を立ち上げています。
意識がどこで、どのように生まれているのか解明するにはまだまだ時間をかかるでしょうが、専門家の"探究"を待ちたいと思います。