校長ブログ

数学という学問

2021.06.10 教科研究
6月10

 数学という学問の歴史をひもとくと、多くの学者が何世代にもわたって一つの難問に挑み、失敗を繰り返しながらも発展を遂げてきたかがわかります。

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 紀元前3世紀、古代ギリシャの「ユークリッド原論」には、点から点に線を引くなど、5つの幾何の前提条件が示されました。しかし、その一つである平行線公理が複雑なため、前提条件にはなり得なかったそうです。そこで当時の数学者は他の4条件からのアプローチを考え、様々なトライアルを試みますが失敗。17〜18世紀にはイタリアのサッケーリらが平行線公理に反する仮定のもとで矛盾を証明しようとしますがこれも実を結びませんでした。

 19世紀になってロシアのロバチェフスキーとハンガリーのボヤイがサッケーリらの考え方を参考に「非ユークリッド幾何学」という理論を創りあげ、これがアインシュタインの一般相対性理論や宇宙物理学の発展につながっていきます。平行線公理を証明するのに実に1000年以上にもわたり続いてきた努力が新しい研究領域を生み出したのです。

 似た例を挙げると、イギリスのガスリー兄弟が1852年に提唱したのが色問題。これはどんな地図でも色に塗り分けられるというものですが、その証明に向けて、数学者たちが世紀を超える論争を展開しています。時系列で追えば、1879年、帰納法を使って色問題の証明に挑んだのがイギリスのケンペという数学者。彼は赤、緑、赤、緑と2つの色が交互に続く国のグループに注目すれば証明できると考えますが、1890年、同じイギリスのヒーウッドが反例を出します。しかし、1976年、アメリカのアッペルとハーケンという学者がスーパーコンピューターを駆使、ケンペの着眼点をプログラムに応用して証明に成功します。その意味で、コンピューターを使い、数学という分野に新たな地平線を拓きました。

「学習指導要領の変遷と失われた日本の研究開発力」(西村和雄他2名、国際教育学会『Quality Education vol.9』)という論文の中で、中学や高校における理数系教科の授業時間数がその科目の得意度に影響を及ぼし、それがさらに特許数にも影響していることが指摘されています。また、中学における数学と理科の時間数が高校での理数教科への興味と関連し、数学や物理が得意である者は相対的に研究成果が高いことも示されています。

 興味深いのは、中学3年間、ゆとり教育を受けた47歳以下の世代とそれより上の世代との比較において、特許出願数と特許更新数に大きな違いがあるということ。新しい世代になればなるほど、中学での理数系教科の授業時間数が少なくなっているため、不得意とする生徒も増加、結果として、技術者になってからの研究成果が少なくなったと述べられています。

 同時に、理数系教育は、日本の技術開発力と直結し、世界の経済競争力に関わっているため、高校までの学校教育が長期にわたって国の経済競争力に負の影響を与え続けてきた要因と分析されています。学習指導要領の改定の度に、理数系教科の授業時間数が削減され、研究開発に必要な人的資源の蓄積を停滞させてきたと言及、精査の必要性を説かれています。

 今、探究と創造のサイクルを生み出すために、分野横断的な学びであるSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育が世界的な潮流になりつつあります。経団連は、統計等の知識を必要とする現状とデジタル分野での人材確保に向けて、文系学生も数学を学ぶべきという立場をとっています。グローバル化、DX化が進む昨今、最適解・納得解を探究し、新たな仕組みを作ることができるスキルが求められています。本校でも時代の要請に照らした教育政策を実践したいと思います。