校長ブログ
みんな引き算が苦手?
6月9日
バージニア大学の研究チームがネイチャー誌に、人は問題解決に向けて、新たな選択肢があるにもかかわらず、足し算にこだわり、引き算による決断が苦手であるが故、意思決定に課題が生じていると発表しました。
「働き方改革」が進められる中、効率よい仕事のあり方が問われています。科学技術が進展する現在、様々な問題解決に向けて選択肢が増えているにもかかわらず、解決にてこずるのはよくある話です。
上述の研究チームは、ベッドの4本ある脚の3本が外れたらベッドが傾いてしまい、どうするかといったとき、3本の脚を付け直すのではなく、残りの1本の脚も外すという選択肢を例示。脚を足すことよりコストをかけずに解決できる方法を強調しています。そして、引き算の見落としは選択肢を狭めるだけでなく、仕事の負担や地球環境の問題につながりかねないとし、足し算から引き算への逆転の発想を指摘しています。
ちなみに、精神医学や臨床心理学の分野では、引き算の発想があっても、その決断には葛藤が伴い、周囲から見れば価値がないと思えるモノをため込み、処分できない行為を「ホーディング」と呼び、研究対象になっているくらいです。
池内裕美氏(関西大学教授)は、対処方法を「獲得の抑制」(足し算)と「モノの処分」(引き算)にグルーピングされています。「獲得」では対象がある程度、特定されるものの、「処分」では対象が定まっていないことが多く、何を処分するか判断するのにかなりのエネルギーがとられるため、「処分」の方がはるかに難しいとのこと。
岩崎邦彦氏(静岡県立大学教授)は、企業の改革に対して「引き算」を奨励。毎年、多くの企業が新規事業に参入していく中、録音機能へのこだわりを捨てた「ウォークマン」、ダイヤルボタンをなくしたスマホ「iPhone」を示し、グローバル・マーケットの成長に伴う需要の多様性において、「引き算」が革新につながるとしています。同氏の調査は、中小小売業約750社を対象としたコロナ禍の影響に関して行われ、結果、規模の拡大よりも質の拡充を志向する「引き算」を試みた企業は影響が小さかったとされています。
どんな組織でも前年踏襲の体質では思い切った「引き算」はできません。最悪のケースは追加ばかりでコストが膨らみます。留意すべきは残すものは残す、削るものは削るという決断力。そのためには何が必要か見極められる力が不可欠です。適切な取捨選択によるスモール・ステップは必ず大きな舞台につながることは学校経営でも同じ。キーワードはブレークスルー、つまり、本質的な課題を克服する革新的な取り組みということになります。