校長ブログ

現代英語教育の理想と現実

2021.05.22 グローバル教育
5月22

 『英語教育の危機』の著者である鳥飼玖美子氏(立教大学名誉教授)は、大学生の英語力低下の現状について、入学してくる多くの学生が英文をまともに読めない、書けない状況にあり、中学レベルの文法の補習をしなければならない状態と述べておられます。

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 斎藤兆史氏(東京大学教授)は、日経新聞のインタビューに対して、「学生は相変わらずしゃべれないし、読み書きの力もがたがたになっている。非常に困っています。東大はまだ、しっかりしてますよ。だけど、他大学の先生に聞くと、品詞なんかも分からないという状況らしい。そうなると、もう目の前が真っ暗になります」とコメントされています。

 同氏は、大学での学問の基礎は、きちんと読めて考えられるということだと強調し、中高で思考力や学力の基礎となる文法や読み書きの力がつけられていないと指摘しています。また、日本では、文法・読解とコミュニケーションを二項対立的に捉える風潮があるものの、語学力は一つであり、読み・書き・文法の力の上に訓練をすれば話せるようになると言及。さらに、基礎ができている学生は、大学に入学してからも伸びが違うということ、英語について言えば、会話は非常に重要と前置きしつつ、文法と読解をしっかり学び、できるだけ音声に触れ、正しい英語を話すことが大切だともおっしゃっています。

 文科省は、大学の国際競争力を高め、「スーパーグローバル大学」を中心に、英語化を進め、グローバル人材を育成することを目標としています。同時に、東京五輪を見据え、小中高の英語教育も充実し、英語による英語の授業を実践し、アジアでトップクラスの英語力をめざすと言っています。

 過去を振り返ると「英語が使える日本人育成のための行動計画」に伴い、大学入試にリスニングテストが導入されました。しかし、期待された効果はあったのか、原因分析とその具体策については精査が必要です。

 江戸時代の藩校や蘭学塾では、「互いに問題を持ち出したり、意見を闘わせたりして、集団研究をする共同学習の方式」(石川謙『学校の発達』)を打ち出し、すでに、主体的・対話的で深い学びを謳っていました。

 明治時代の『東京高等師範学校附属中学校教授細目』(1910)には、英語で英語の指導について、すでに指導した語句を用いて説明する場合、身振り等で英語で説明する場合、復習・練習する場合は、なるべく英語を用いてとありますが、文法の説明など、正確を要するものは国語を用いると記されています。

 2016年の中央教育審議会答申には、「高校生の多様性を踏まえ、外国語で授業を行うことを基本とすることが可能な科目を見直す必要がある」と明記されています。時代は変われど、英語で英語の授業の本質は不変であり、生徒がなるべく多く英語を使える環境づくりをすることだということがわかります。

 本校においても、日本の英語教育における光と影をしっかり踏まえた上で、新学習指導要領に対応するカリキュラムを策定し、組織的マネジメントの下、生徒が確実に成長できるPDCAサイクルに基づくシラバスを作成していこうと思います。