校長ブログ
明日は創立記念日です!
2021.05.08
学校生活
5月8日
創立記念日に際して
-時代を超えて今なお生きる不易の教育精神-
校長 平井 正朗
5月9日は本校の創立記念日にあたります。大正13年(1924年)5月9日に兵庫県知事より設立が認可され、同年6月15日に山手尋常小学校の一部を借りて山手学習院として開校して以来、今年で97回目を迎えることになります。
歴史をひもとけば、当時の神戸には、尋常小学校を卒業して、さらに勉学を深めたいと思う女子生徒のための高等女学校(現在の中学校)が不足していました。そこで、山手尋常小学校の杉野精造校長が中心となり尽力した結果、卒業生や保護者、地域の方々からご協力、ご支援していただき、山手学習院を新設するに至ったのです。初期の頃の授業は、現在のこうべ小学校のあるところで行われており、小学校の南門付近には、「山手小学校発祥の地」という石碑が建てられています。
建学の精神の一つである「自学自習」には、学校は自らが学ぶ場であり、生徒が進んで学ぶ態度を養うところという杉野校長の思いが込められているそうです。これはDX化、グローバル化の進展に伴い、新学習指導要領における「学ぶことに興味や関心を持ち、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」ことに直結します。また、人間がAIと共存していく社会で必要となる能力をチェンジ・メーカー(未来を創る当事者)と定義し、その育成に向けて、ICT技術による多様な学びのシステムを通じた個別最適化学習(アダプティブ・ラーニング)を推奨する経済産業省のコンセプトとも一致します。
もう一つの建学の精神である「情操陶冶」の情操とは非認知能力、つまり、「見えない学力」のこと。情操教育という言葉が使われますが、「情操」とは感受性を育み、心を豊かにし、道徳的心情や価値観を養うことであり、「陶冶」とは人格陶冶という言葉が示す通り、人間を育て上げることを意味します。ノーベル経済学賞を受賞したヘックマン氏(米)は、子どもの人生の成功には認知能力だけでなく、非認知能力が影響しており、その育成には幼児期の教育環境が重要であると主張されています。OECDは、非認知能力を目標達成、他者との協働、感情処理の側面に関する思考・感情・行動として表れるとされる社会情動的スキル(social and emotional skills)としています。これは教育基本法の教育の目的に相当するのと同時に、新学習指導要領における「三つの柱」の一つである「学びに向かう力、人間性など」に相当します。いずれにせよ、人が人として成長していく過程で、非認知能力が基盤的な学力として表立って必要とされる認知能力向上を支えているという構図がいつの時代も教育の根底に流れているのです。
創立2年目には、英語を教えておられたシャーロット・J・スミス先生によって、セーラーカラーの制服が考案され、今日まで引き継がれています。同時期に制定された校章は、当初は銀色でしたが、後にライトブルー、そして、赤文字で「山手」と描かれました。校歌は昭和3年(1928年)に制定されますが、作詞作曲は本校の先生方。歌詞は3番と4番が現在まで残っています。大正15年には今の場所に校舎が移転、正式な女子校となり、名称も神戸山手高等女学校となりました。
神戸の街は幾多の自然災害や戦争の被害にも遭いました。昭和13年7月には阪神大水害が発生、市内では地滑りなど、惨事に見舞われました。運動場ではがけ崩れが起こり、学校の前の道路も濁流に飲み込まれました。昭和18年には太平洋戦争が勃発、女子学生が工場に動員されました。昭和20年3月の神戸大空襲では木造校舎が消失しましたが、幸いにも現在の本館だけは残っています。昭和28年、全校コーラスの時間が設けられ、昭和30年、春の全国高校野球大会の開会式で大会歌の合唱を担わせていただくことになります。昭和41年、高校に音楽課程が設置され、卒業式も合唱を中心とした展開にリニューアル、今日まで継承されています。今や卒業生は約2万人を数え、それぞれが社会の一翼を担っています。令和2年4月、神戸山手学園は濱名学院と法人合併し、新たに「濱名山手学院」として生まれ変わり、幼児教育から中高、専門学校、大学、大学院を擁する一大総合学園に発展、新しい時代を展望しつつ、確かな歩みを続けています。
学院の教育ミッションは、「『他者を尊重しつつ、主体的・能動的に自らの人生を切り拓く』ことができる人間を世界に送り出すこと」です。その中で、本校は、創立以来の建学の精神である「自学自習」と「情操陶冶」の下、「未来型リーダーシップの女性育成」を目標に掲げています。約1世紀に亘る歴史と伝統を継承しつつ、予測不可能な未来社会で女性として豊かで幸せな人生が送れる、そのような学力と能力を培うことができる未来志向型女子教育のスローガンを「山手ルネサンス」と定め、より一層、探究教育、英語教育、ICT教育、音楽教育、中高大の連携教育等を進化させ、様々な教育実践に取り組んで参ります。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、"新しい生活様式" が求められる中、"WITHコロナ"、"AFTERコロナ"といった言葉が目につくようになりました。これまで人類はどんな困難に直面しても創意工夫によって"最適解"を導き、難局を克服し、豊かな文明を築き上げてきました。歴史とは時代の証言であるのと同時に教訓の宝庫。今こそ、"新しい生活様式"に向けて、人類がいかに知恵を絞って危難を乗り越える努力をしてきたかを冷静に把握し、原点回帰して"あるべき姿" を見つめ直すことこそが"未来を生き、人生を幸せに生きるための準備段階にいる"若人の務めなのではないでしょうか?
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