校長ブログ
新課程の高校国語
2021.04.21
教科研究
4月21日
文科省が新学習指導要領を告示したのは2018年ですが、実際、高校のカリキュラムが大きく変わるのは2022年度から。高校国語の解説には「生涯にわたる社会生活における他者との関わりの中で伝え合う力を高め、思考力や想像力を伸ばす」ことが目標のひとつに掲げられており、科目編成としては、必修科目が「現代の国語」「言語文化」の2科目となり、選択科目が「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の4科目とされています。
必修2科目では、実用重視の教育政策によって小説などのフィクションを取り扱うことがなくなります。現在、文学における論理性も含めて教材の幅を狭めることへの不安感が囁かれているのも事実です。
小倉孝誠氏(慶応義塾大学教授)は、社会や他者との関わりの中で、生徒が主体的に自分の考えを伝達する能力を育むことを鑑みると、新指導要領の方向性には懐疑的にならざるをえないと述べられています。そして、最大の問題として「論理国語」と「文学国語」という選択科目が分離していることを問題視。同氏によれば、前者は「論理的な文章」「実用的な文章」、後者は「文学的な文章」を扱うことになるものの、文学作品を解釈すること自体が論理的な作業であり、科目と教材の細分化は思考力、判断力、表現力などを総合的に育むという国語科の目標にそぐわないだけでなく、複雑化する世界を理解し、多様な知と交流していくためには疑問符がつくとのこと。また、アジアや欧米の高校における国語教育のように、科目の細分化をなくし、文学、哲学や思想等を教科横断的に解釈、分析することによって、クリティカル・シンキングする力を深め、自らの考えを表現することを高めることが重要であるとしています。
OECDによる学習到達度調査(PISA)によると、2015年、2018年と日本の生徒の読解力は平均点、順位とも下降し続けています。加えて、多くの高校教員が文学を好み、作品鑑賞に重点を置きたがる傾向がある点も指摘されています。同氏らは、次回の指導要領改訂を見据え、必修科目として、「総合国語」を設け、思考力、判断力、表現力等を体系的に育むこと、選択科目として、問題提起的な様々なジャンルの教材を論理的に分析、それについて発表する「思考と言語」、文学、評論、思想を横断した教材を用いて言葉への関心と想像力を育む「言語と創造」を設けること、さらに、「古典探究」を「言語文化」に改編、近世や近代の文章にも触れながら我が国の伝統文化を学びつつ、データベース、視聴覚教材、古典芸能の鑑賞などを通じて古典教育の充実を図ること等を提言されています。
言葉は世相を反映し、時代によって変わり、人と共に生きています。国語教育を実践する以上、使用場面に応じた正しい言葉使いに習熟したいものです。「国語に関する世論調査」(文化庁)によると、国語が「乱れていると思う」は約66%であり、前回(2014年度)より減少しています。一方、「乱れていないと思う」は約30%(+6.7ポイント)で増加傾向で過去最高です。年代によって違いも生じています。10代は「乱れていない」(51・5%)と感じている者が「乱れている」を上回り、40〜60代は「乱れている」と感じている者がそれぞれ7割以上を占めています。文化庁は、SNS等の普及で多様な表現に触れる機会を得ている分、子供たちは新しい使い方に寛容になっており、「気にはなるが、乱れとまではとらえていない」と分析しています。
「乱れている」と答えた人は、ネット時代を反映してか敬語の使い方や若者言葉を気にかけています。年代別に見ると、10代の子供たちは8割以上が、若者言葉が国語としては乱れていると自覚しているものの、状況に応じて使い分けているようです。過去の調査では大きな変化は見られませんが、SNSが発達し、絵文字など、情報発信手段が多様になったのがこの10年の特性とも言える現象です。
[参考]日本財団の調査(17~19歳の約1,000人)によると、新型コロナの影響で、約25%の読書量が増加しています。読書が「好き」と答えたのは約60%であり、「嫌い」は約13%。1カ月間に読む本の冊数は「1~2冊」が約45%で最も多く、続いて「全く読まない」の約33%の順。本校でも朝読、ビブリオバトル等、様々な読書活動を国語科が主導して展開してくれています。